ダチョウの夢
INDEX
お隣の韓国がMERS騒動で大変な事になっていますが、最近ダチョウの卵からMERS抗体を大量精製しMERS感染予防に役立てる試みが始まったという新聞記事を読みました。
ダチョウは傷の治りが極めて早いという免疫力の強さに着目した京都の大学の先生がダチョウの卵を用いてMERS感染予防の抗体を大量精製する事に成功したと言うのです。ダチョウの羽毛が新型インフルエンザのマスクに利用された事もありました。
ところで私はもともとダチョウに愛着を持っていました。鳥と恐竜の合いの子の様な奇妙な巨大な体に顔の割の大きな愛くるしい目をした飛べない不思議な鳥ですが、真偽のほどはともかく危険が身に及んだ時に頭を砂の下に隠す「頭隠して尻隠さず」の行動をとるという話が、いつも嫌な事があると何となく同じような行動をとってしまう私の性格に似て妙に親近感を抱かせます。
かつて私が心臓外科医として働いていた懐かしの英国ウェールズのプリンス オブ ウェールズ紋章には、ダチョウの羽毛があしらわれていました。
庭にダチョウを飼って自転車代わりに愛鳥に乗って通勤したいと言って感心された?のは、高名な編集者が主催した「新宿奇人会」という席に呼ばれ、超の付く奇人の直木賞作家で先ごろ亡くなった車谷長吉さんと奇人談義をした時でした。
ところで、ダチョウに関しては少し残念な思い出があります。
20年以上も昔、親しくしていた中国人留学生のT君といつも酒を飲んでは他愛もない話に花を咲かせていましたが、そのうち一緒に何か事業をやろうという話になりました。色々なアイデイアがでましたがT君が当時中国で高級牛肉の需要が高まりつつあり、日本の和牛の旨さを知ってもらう為のビジネスはどうかと提案してきました。私は肉質の良い和牛を中国で飼育する事が困難である事や複雑な食肉流通システムの障壁があり、どうせやるなら他の家畜の飼育を考えようという事でダチョウ牧場に行きつきました。
当時砂漠に近い中国の土地の値段はめっぽう安く、広大な土地を牧場として購入する事が可能でした。元来サバンナや砂漠に生息しているダチョウは飼育に手がかからず成長も早く、勝手に雑草を食べて育ちそうです。おまけに鶏の20倍もの大きな卵を産みます。ダチョウの肉は高タンパク、低脂肪で健康に良く、日中国民の健康対策への貢献が期待されます。「これでいこう!」という事でT君は早速帰国して土地を探し始めたのでしたが、その話を聞きつけた細君が猛反対でした。おまけに私の愚妻も「バカもいい加減にして!」と相手にしてくれません。という事で残念ながら我々の夢の計画は頓挫してしまいました。
その後も相変わらず近くの行きつけの寿司屋で一杯やりながら二人で夢のビジネスの話をしていましたが、ある時中華料理の具材の話となり私が前菜で必ず食べるピータンが話題となりました。一般的にピータンはアヒルの卵からできていますが、理屈の上からは全ての鳥の卵から作る事が可能なはずです。小さい卵では製造にかかる日数も短くて済み簡単に作れそうなので、ウズラの卵はどうだろうという事になりました。既に市場に出回っていればビジネスの面白みもないのですが調べてみると当時は見当たりませんでした。
早速T君が様々なツテを探り中国国内のピータン業者にあたってみたところ業者も興味を示してくれました。ウズラを大量に購入して業者に製造を依頼し数か月後、いつもの寿司屋で待っているとT君が嬉しさを抑えきれない様な表情でバッグを提げてやって来ました。そして私の耳元で「出来ました。大成功です!」とささやいたのです。
今や時効ですがこっそり持ち込んだウズラピータンの試作品は大きめの試験管の様なガラスの容器の中に10個ほど入っています。かつてコスタリカに国鳥の火の鳥ケッツアールを見に行くと称し、イグアナの刺身とウミガメの卵を食べに行った時、生わさびと刺身醤油を餞別にくれた寿司屋の主人にお皿を出してもらい飲み仲間の客の前に置きました。
うずらピータンは洗い立てのマスカットの様に輝いています。切ってみると黄身の周囲にぷりぷりの濃い紫色の透明な皮があり一口サイズのピータンを楊枝で口入れると絶品です。製造法は企業秘密なので試食した皆にうずらピータンの存在は口外しない様頼みました。
私は世界中の中華料理の前菜の皿にアヒルとウズラのピータンが綺麗に並べられた状況を想像してほくそえみましたが、何かもうひとつインパクトが足りません。そこで皿の中心に巨大なピータンを置く太陽系をイメージした皿を考えてみました。さて太陽ほどもあるピータンは?という1週間ほどの熟考の末の結論はやはり「ダチョウの卵」でした。
早速ダチョウピータンの製造をT君に持ちかけました。「それはいくらなんでも無理じゃないですか。」という唖然とした表情のT君に、「ダチョウピータンは秦の始皇帝も食べた事はないはずだからやってみる価値はある。」という訳の分からない説得と酒の勢いでT君を説き伏せました。早速T君が中国のピータン業者に問い合わせると、やってやれない事は無いかもしれないが製造には半年以上かかり、技術的にも難しく製造費用も高額となる事を承知ならばやってみようという事になりました。その後中間報告が時々入り、上手く行くかもしれないとのニュースに、二人でピータン長者になる夢を見ながらうまい酒を酌み交わしていました。
ところがある日いつもの寿司屋で待っているとT君が顔色を変えて入って来ました。
中国で飼育していたウズラが全部処分される事になったのです。2003年の中国全土に猛威を振るった鳥インフルエンザの流行でした。
我々のウズラ、ダチョウピータンの夢は完全に潰えました。
その後しばらくしてT君は中国に戻り、行きつけの寿司屋さんも店を閉じました。
T君は細君からいつもおかしな話を持ちかける小生とはビジネスの話はけっしてしない様きつく言われたそうです。私も家内からもう少しクリニックの事だけを真剣に考える様くぎを刺されました。
さてその年猛威を振るい多くの鳥が死んだ鳥インフルエンザでしたが、ダチョウだけは罹患せず、その驚異的な特殊な免疫力が話題となりました。ダチョウに目を付けたのは間違ってはいなかったと一人自負していましたがMERSにまで効くとは驚きでした。
ダチョウはまさにスーパーバードです。人類の救世主になるかもしれません。
尚先年亡くなった私の愛鳥おかめインコのピータンと今回のお話は何の関係もありません。
理事長 弘岡泰正
お隣の韓国がMERS騒動で大変な事になっていますが、最近ダチョウの卵からMERS抗体を大量精製しMERS感染予防に役立てる試みが始まったという新聞記事を読みました。
ダチョウは傷の治りが極めて早いという免疫力の強さに着目した京都の大学の先生がダチョウの卵を用いてMERS感染予防の抗体を大量精製する事に成功したと言うのです。ダチョウの羽毛が新型インフルエンザのマスクに利用された事もありました。
ところで私はもともとダチョウに愛着を持っていました。鳥と恐竜の合いの子の様な奇妙な巨大な体に顔の割の大きな愛くるしい目をした飛べない不思議な鳥ですが、真偽のほどはともかく危険が身に及んだ時に頭を砂の下に隠す「頭隠して尻隠さず」の行動をとるという話が、いつも嫌な事があると何となく同じような行動をとってしまう私の性格に似て妙に親近感を抱かせます。
かつて私が心臓外科医として働いていた懐かしの英国ウェールズのプリンス オブ ウェールズ紋章には、ダチョウの羽毛があしらわれていました。
庭にダチョウを飼って自転車代わりに愛鳥に乗って通勤したいと言って感心された?のは、高名な編集者が主催した「新宿奇人会」という席に呼ばれ、超の付く奇人の直木賞作家で先ごろ亡くなった車谷長吉さんと奇人談義をした時でした。
ところで、ダチョウに関しては少し残念な思い出があります。
20年以上も昔、親しくしていた中国人留学生のT君といつも酒を飲んでは他愛もない話に花を咲かせていましたが、そのうち一緒に何か事業をやろうという話になりました。色々なアイデイアがでましたがT君が当時中国で高級牛肉の需要が高まりつつあり、日本の和牛の旨さを知ってもらう為のビジネスはどうかと提案してきました。私は肉質の良い和牛を中国で飼育する事が困難である事や複雑な食肉流通システムの障壁があり、どうせやるなら他の家畜の飼育を考えようという事でダチョウ牧場に行きつきました。
当時砂漠に近い中国の土地の値段はめっぽう安く、広大な土地を牧場として購入する事が可能でした。元来サバンナや砂漠に生息しているダチョウは飼育に手がかからず成長も早く、勝手に雑草を食べて育ちそうです。おまけに鶏の20倍もの大きな卵を産みます。ダチョウの肉は高タンパク、低脂肪で健康に良く、日中国民の健康対策への貢献が期待されます。「これでいこう!」という事でT君は早速帰国して土地を探し始めたのでしたが、その話を聞きつけた細君が猛反対でした。おまけに私の愚妻も「バカもいい加減にして!」と相手にしてくれません。という事で残念ながら我々の夢の計画は頓挫してしまいました。
その後も相変わらず近くの行きつけの寿司屋で一杯やりながら二人で夢のビジネスの話をしていましたが、ある時中華料理の具材の話となり私が前菜で必ず食べるピータンが話題となりました。一般的にピータンはアヒルの卵からできていますが、理屈の上からは全ての鳥の卵から作る事が可能なはずです。小さい卵では製造にかかる日数も短くて済み簡単に作れそうなので、ウズラの卵はどうだろうという事になりました。既に市場に出回っていればビジネスの面白みもないのですが調べてみると当時は見当たりませんでした。
早速T君が様々なツテを探り中国国内のピータン業者にあたってみたところ業者も興味を示してくれました。ウズラを大量に購入して業者に製造を依頼し数か月後、いつもの寿司屋で待っているとT君が嬉しさを抑えきれない様な表情でバッグを提げてやって来ました。そして私の耳元で「出来ました。大成功です!」とささやいたのです。
今や時効ですがこっそり持ち込んだウズラピータンの試作品は大きめの試験管の様なガラスの容器の中に10個ほど入っています。かつてコスタリカに国鳥の火の鳥ケッツアールを見に行くと称し、イグアナの刺身とウミガメの卵を食べに行った時、生わさびと刺身醤油を餞別にくれた寿司屋の主人にお皿を出してもらい飲み仲間の客の前に置きました。
うずらピータンは洗い立てのマスカットの様に輝いています。切ってみると黄身の周囲にぷりぷりの濃い紫色の透明な皮があり一口サイズのピータンを楊枝で口入れると絶品です。製造法は企業秘密なので試食した皆にうずらピータンの存在は口外しない様頼みました。
私は世界中の中華料理の前菜の皿にアヒルとウズラのピータンが綺麗に並べられた状況を想像してほくそえみましたが、何かもうひとつインパクトが足りません。そこで皿の中心に巨大なピータンを置く太陽系をイメージした皿を考えてみました。さて太陽ほどもあるピータンは?という1週間ほどの熟考の末の結論はやはり「ダチョウの卵」でした。
早速ダチョウピータンの製造をT君に持ちかけました。「それはいくらなんでも無理じゃないですか。」という唖然とした表情のT君に、「ダチョウピータンは秦の始皇帝も食べた事はないはずだからやってみる価値はある。」という訳の分からない説得と酒の勢いでT君を説き伏せました。早速T君が中国のピータン業者に問い合わせると、やってやれない事は無いかもしれないが製造には半年以上かかり、技術的にも難しく製造費用も高額となる事を承知ならばやってみようという事になりました。その後中間報告が時々入り、上手く行くかもしれないとのニュースに、二人でピータン長者になる夢を見ながらうまい酒を酌み交わしていました。
ところがある日いつもの寿司屋で待っているとT君が顔色を変えて入って来ました。
中国で飼育していたウズラが全部処分される事になったのです。2003年の中国全土に猛威を振るった鳥インフルエンザの流行でした。
我々のウズラ、ダチョウピータンの夢は完全に潰えました。
その後しばらくしてT君は中国に戻り、行きつけの寿司屋さんも店を閉じました。
T君は細君からいつもおかしな話を持ちかける小生とはビジネスの話はけっしてしない様きつく言われたそうです。私も家内からもう少しクリニックの事だけを真剣に考える様くぎを刺されました。
さてその年猛威を振るい多くの鳥が死んだ鳥インフルエンザでしたが、ダチョウだけは罹患せず、その驚異的な特殊な免疫力が話題となりました。ダチョウに目を付けたのは間違ってはいなかったと一人自負していましたがMERSにまで効くとは驚きでした。
ダチョウはまさにスーパーバードです。人類の救世主になるかもしれません。
尚先年亡くなった私の愛鳥おかめインコのピータンと今回のお話は何の関係もありません。
理事長 弘岡泰正