新型コロナウイルス感染症の後遺症の基礎知識
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「いよいよ本格的にアフター・コロナの時代が始まった」と感じている人は多いのではないでしょうか。
新しい時代のなかで考えなければならない問題の1つに、新型コロナウイルス感染症の後遺症(以下、コロナ後遺症)があります。
コロナ感染症が治ってからも後遺症に悩まされる人がいます。WHOはこれを「post COVID-19 condition」と名づけ、次のように定義しています。
■WHOによるコロナ後遺症(post COVID-19 condition)の定義(*1)
新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもの |
ヒロオカクリニックは、コロナ後遺症外来を行う医療機関として東京都福祉保健局のHPにも掲載されており、この治療に力を入れています(*2、*3)。
この記事ではコロナ後遺症の基礎知識を紹介します。
コロナ後遺症の症状:さまざまな説明
コロナ後遺症の定義は先ほど紹介したとおりなのですが、この病気はまだまだ不明な部分も多く、さまざまな医療機関がさまざまな説明をしています。
ここでは国立病院機構千葉医療センターと、感染症の専門家たちで構成した「罹患後症状のマネジメント編集委員会」の説明を紹介します(*4、*5)。
わかりやすい説明~国立病院機構千葉医療センター
国立病院機構千葉医療センターのコロナ後遺症の説明はとてもシンプルでわかりやすい特徴があります。
■コロナ後遺症の概要
・新型コロナウイルスに感染したあとに、倦怠感や胸痛、脱毛、記憶障害などさまざまな症状が持続することが報告されている
・若く健康な人でも、5人に1人は症状が長く続くことがある
・2割で脱毛、3割で記憶障害、睡眠障害、集中力低下を訴えている
・重症例では、半数以上が退院1カ月後も呼吸機能が戻らないことがある
・1割が1ヶ月後も嗅覚・味覚異常が続いている
この内容はわざと簡略化しています。あえて概要だけを示すことで「医療の難しい話」を飛ばして、コロナ後遺症を知っていただきたいからです。
同センターはさらに、コロナ感染症による疲労は単なる疲れではなく、モチベーションが高まらなかったり、集中力が低下したりと精神活動にも影響が出る点に特徴があり、ビジネスパーソンのなかには仕事に行けない人もいる、と指摘しています。
また、元々の病気である新型コロナウイルス感染症の症状が重く、入院療養のなかで苦しい思いをした人は、感染症が治ったあとも「息苦しくなったときに不安を感じる」「入院中の記憶が突然よみがえる」「悪夢をみる」といったことに悩まされることがあるといいます。
罹患後マネジメントで紹介されている症状
厚生労働省は2021年12月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き、別冊、罹患後症状のマネジメント」(以下、罹患後マネジメント)を発行しました(*5)。
罹患後マネジメントのなかでは、コロナ後遺症(post COVID-19 condition)のことを罹患後症状と呼び代表的な症状として次のものを紹介しています。
■罹患後症状(コロナ後遺症)の代表的な症状
・全身症状:倦怠感、関節痛、筋肉痛
・呼吸器症状:咳、喀痰、息切れ、胸痛
・精神・神経症状:記憶障害、集中力低下、不眠、頭痛、抑うつ
・その他の症状:嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛
なお、先ほど紹介した国立病院機構千葉医療センターと、この罹患後マネジメントの内容に齟齬はありません。
なぜコロナ後遺症が起きるのか
罹患後マネジメントでは、コロナ後遺症(罹患後症状)が起きる理由は「不明な点が多く、諸説ある」と説明しています。
つまり「~だからコロナ後遺症が起きる」という理由は確定していません。
では諸説にはどのようなものがあるのか紹介します。
■(確定はしていないが)コロナ後遺症が起きる理由
理由1:ウイルスに感染した組織への直接的な障害
理由2:ウイルス感染後の免疫調節不全による炎症の進行
理由3:ウイルスによる血液凝固能亢進と血栓症による血管損傷・虚血
理由4:ウイルス感染によるレニン・アンジオテンシン系の調節不全
理由5:重症者の集中治療後症候群
理由1は、特に肺へのダメージを懸念しています。ウイルスが肺にダメージを与えたため、後遺症が出てしまうのではないか、という見解です。
理由2は免疫に異常が起きて後遺症が起きるという見解です。
理由3は血液に異常が起きて心臓や血液や血管などの循環器系に支障が出るのではないかと疑っています。
理由4のレニン・アンジオテンシン系は、腎臓、神経、血管、血圧などに影響を与えます。こられの臓器、器官に支障が出れば後遺症が出るはずです。
理由5の集中治療後症候群とは集中治療室などで治療を受けることで起きる、身体障害、認知機能障害、精神障害のことです。
コロナ後遺症外来で行われている治療
当院などが行っているコロナ後遺症外来では、コロナ後遺症に苦しむ患者さんに症状を和らげる治療などを提供しています。
コロナ後遺症は先ほどみたとおり、特定の臓器の病気であり、全身的な病気であり、精神的な病気でもあります。
そのためコロナ後遺症外来では、どの臓器、器官が症状を起こしているのか特定するため、検査を行います。
そして検査で症状の原因が特定できれば治療に取りかかります。
さらに、コロナ後遺症外来のもう1つの重要な役割に、治療が難しい症状を持つ患者さんに、高度な医療を提供している病院を紹介することがあります。
コロナ後遺症は「コロナの新たな脅威」といえるので、クリニックに通院することで治せる症状はコロナ後遺症外来を開いているクリニックで治し、そうでない症状は高度医療を提供している病院で治していくという連携が必要になります。
まとめ~感染経験者は不調を我慢しないで
コロナに感染したことがあり、感染症に苦しんだ経験がある方は、その後、不調を感じたら我慢しないようにしてください。
コロナ後遺症かもしれないからです。
そのような方は、まずはコロナ後遺症外来を開設している、当院のようなクリニックにかかってみてください。
コロナ後遺症外来であれば、コロナ後遺症なのか、ほかの病気なのかがわかるので必要な治療を受けることができます。