【バレット食道の解説】食道がんや逆流性食道炎との関係
INDEX
バレット食道とは、食道の粘膜が、胃の粘膜のようになってしまう現象のことで、食道がんに進んでしまうこともあります(*1)。
この記事では、なぜ食道が胃のようになってしまうのか、さらに、食道がんや逆流性食道炎との関係について解説します。
食道と胃の関係
バレット食道を理解するには、食道と胃の関係について知っておく必要があります。
食道と胃はつながっています。そして胃は十二指腸とつながり、さらに小腸、大腸へとつながります。そういった意味では、口、喉、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門は、1本の長い管(くだ)をつくっているといえます。
1本の管なのに、食道と胃が別の臓器として扱われるのは、性質と形状がかなり違うからです。
食道は食べ物を胃に送るだけで、消化も吸収もしません。食道はホースのように細長い形をしています。
胃は胃酸を含む胃液を分泌して、食べ物を消化してから、それを十二指腸に送ります。胃は袋状になっています。
粘膜の種類も違う
粘膜とは、口のなかの表面や、食道のなかの表面、胃のなかの表面などの、柔軟で丈夫な膜のことで、粘液によって湿っています。
食道と胃では、粘膜の性質も異なります。
例えば、胃は、鉄を溶かすほど強い酸にさらされるので、胃の粘膜には酸から胃壁を守る機能が備わっています。
しかし、健康な食道は酸にさらされることがないので、酸から食道を守る機能は備わっていません。
胃内視鏡で確認すると、食道の粘膜と胃の粘膜は、見た目が違うことがわかります。
食道の粘膜は、食道と胃の境で終了し、そこから胃の粘膜が始まります。
また、食道の粘膜と胃の粘膜の境のことを、食道と胃の境とみなすこともできます。
バレット氏が発見したバレット食道とは
バレット食道は、イギリスの胸部外科医のノーマン・バレット氏(1903~1979年)が発見して1950年に公表しました。
健康な胃の粘膜の表面は、円柱上皮という細胞の層に覆われています。
そして健康な食道の粘膜の表面は、扁平上皮という細胞の層に覆われています。
バレット食道では、扁平上皮が次々と円柱上皮に置き換わってしまいます。外観上は、扁平上皮と円柱上皮の境が、口のほうに向かってどんどん上がっていくようにみえます。
概念図で示すと次のようになります。
健康な人 | バレット食道 |
食道:扁平上皮 | 食道:扁平上皮 |
食道:円柱上皮
(食道部分なのに 円柱上皮になっている) |
|
胃:円柱上皮 | 胃:円柱上皮 |
症状は胸やけなど
バレット食道を発症すると、胸やけ、胸の痛みといった症状を発症します。
原因は逆流性食道炎
バレット食道の原因の多くは、逆流性食道炎です。
逆流性食道炎とは、本来は胃のなかにとどまっていなければならない胃液が、何らかの異常により食道に侵入し、食道に炎症を起こす病気です。
逆流性食道炎によってバレット食道が起きるメカニズムと、食道の粘膜が円柱上皮化するのは、整合性が取れています。
胃液が酸を含むのに胃が傷つかないのは、胃粘膜≒円柱上皮があるからです。
一方で食道の内側の表面には胃粘膜≒円柱上皮がないので、食道が胃液に触れると、食道は傷つきます。
しかし、食道粘膜が円柱上皮になれば、胃と同じように胃液に耐えることができます。
そのため、食道の円柱上皮化は環境対応であると指摘する医師もいます。
ただ、なぜ食道粘膜≒扁平上皮が胃液におかされると円柱上皮になってしまうのかはわかっていません。胃酸による炎症が繰り返されることで細胞が変性するのではないか、と推測されています。
治療
バレット食道が改善することはありません。つまり、一度円柱上皮になってしまった扁平上皮が、再び扁平上皮に戻ることはありません。
そのためバレット食道の治療では、原因となっている逆流性食道炎を抑えることによって、悪化させないことを目指します。これ以上食道の粘膜を円柱上皮化させないようにします。
逆流性食道炎を抑えるには、プロトンポンプ阻害薬という薬を使って、胃液の分泌を少なくしていきます。
食道がんとの関係
バレット食道の治療に取り組む最大のメリットは、食道がんリスクの低下が期待できることです。
バレット食道は「食道がんの発生母地」と呼ばれることがあるくらいです。
また、バレット食道を起源とする食道がんのことを、扁平上皮にできる食道がんと区別して「バレット食道がん」と呼んでいます(*1)。
アメリカでは1995年以降、バレット食道がんの発症件数が、食道扁平上皮がんを上回り、2005年には食道がんの70%がバレット食道がんになりました。
日本でもバレット食道がんが増えているという指摘があります。
バレット食道がんには、腸上皮化生が関わっているとされています。
腸上皮化生とは、炎症などにより粘膜が腸管粘膜上皮に変わってしまう現象です。
つまり、食道の扁平上皮が、胃の円柱上皮になるのではなく、腸の腸管粘膜上皮になってしまうわけです。
腸上皮化生はがんの発生を誘発する性質があります。
まとめ~胸やけの段階で治療に取り組んでもよい
食道の粘膜の表面は、健康であれば扁平上皮で覆われています。
バレット食道を発症すると、扁平上皮が円柱上皮に置き換わります。
さらに食道の粘膜に腸上皮化生が起きると、バレット食道がんの発症リスクが高まります。
「扁平上皮→円柱上皮→腸上皮化生」と進むにつれて危険度が増します。
そのため、バレット食道や逆流性食道炎の症状である胸やけが起きた段階から治療に取り組むことは大切なことであることがわかります。
新宿ヒロオカクリニックでは健診・人間ドックでの胃内視鏡検査に加え、消化器内科の専門医による外来診療も行っております。詳細はこちら