息切れの原因は?注意が必要な症状や考えられる病気について解説
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階段や坂道を上るとき、運動の後など、息切れを感じる場面は日常生活の中に多くあります。しかし、症状によっては、呼吸器や心臓に病気が隠れている場合があることをご存知でしょうか。
この記事では、注意したい息切れの症状や、息切れの原因となりうる病気について解説しています。「以前よりも息切れすることが多くなった」「少し動いただけでも息切れしてしまう」など、気になる症状がある方は参考にしてください。
呼吸のしくみ
まずは、呼吸のしくみについて確認してみましょう。鼻から吸い込んだ空気は、気管支を通って肺に運ばれます。肺は、肋骨にある筋肉や横隔膜によって広げられたり縮められたりします。息を吸ったときは、肺が広がった状態です。
肺にある肺胞で、吸い込んだ空気中の酸素と、肺に運ばれてきた血液中の二酸化炭素が交換(ガス交換)され、酸素濃度の高い血液がからだ中の組織に運ばれていきます。その後、肺が縮むことで肺の中の空気が押し出され、体から不要な二酸化炭素を排出しています。
組織に運ばれた酸素は、食べ物などの代謝の過程でエネルギーを作り出すために使われ、同時に二酸化炭素が生成されます。つまり、必要なエネルギーを作り出し生きていくためには、呼吸によって酸素を体に取り込み、不要となった二酸化炭素を体から排出することが重要なのです。
息切れとは?
息切れとは、呼吸をするのに努力が必要であったり、息がしにくくなったりする状態のことをいいます。「ハアハア」「ゼエゼエ」と息が切れ、息をするのが苦しくなります。不足している酸素を一生懸命取り込もうとして、息が上がるのです。
息切れが起こる理由は、体にとって必要な酸素の供給が足りていないからです。血液中の酸素濃度が低い場合もあれば、酸素濃度は低くないのに酸素を運ぶヘモグロビンの不足によって組織に酸素が運ばれないという場合もあります。
酸素の不足は、からだにとって非常事態であり、あらゆる器官に酸素の不足を感知するセンサーがあります。このセンサーが反応すると、もっと酸素を取り込もうと激しい呼吸が促され、息切れが起こるのです。
息切れが起きるのはどんなとき?
息切れは、主に以下の4つの場面で起きていると考えられます。
- ・階段や坂道を上ったとき
- ・激しい運動をしたとき
- ・疲れやストレスを感じたとき
- ・肺や心臓の病気がかくれているとき
階段や坂道を上ったとき
階段や坂道を上ると、誰でも息切れがすることがあります。平坦な道では息切れしないのであれば、あまり問題にはならないでしょう。
運動をしたとき
激しいスポーツや運動をすると息切れする、というのもよくあることです。運動をやめた後も息切れが続く場合は、少し注意が必要です。
呼吸器や心臓に病気が隠れているかもしれません。以前に比べて症状がひどくなってきたと感じる場合は、医療機関で検査をしてみましょう。
疲れやストレスを感じたとき
緊張や不安の中で、疲れやストレスを感じたとき、息切れが生じるかもしれません。一時的な息切れならば問題ありませんが、激しい息切れや呼吸が苦しい場合は、過換気症候群の可能性もあります。同じようなことが続く場合は、医療機関に相談してみましょう。
呼吸器や心臓の病気が隠れているとき
呼吸器や心臓に病気が隠れているときには、息切れが起こりやすいといえます。年齢を重ね体力の低下とともに息切れを感じることも増えてくるでしょう。以前に比べて、息切れをひどく感じるようになったら、一度検査してみると安心です。
息切れの評価法 MRCスケールとは?
MRCスケール(Medical Research Council dyspnea scale)は、息切れの症状を評価するために使用します。いくつかの修正版がありますが、5段階に分けて評価するMRCスケールがよく使用されています。
特に問題とならない集団をGrade0とするのかGrade1とするのかなど、小さな違いはいくつかありますが、大まかな内容は同じです。今回は、米国胸部疾患学会(ATS)とヨーロッパ呼吸器学会(ERS)が合同で 2004 年に発表したATS/ERS版MRC息切れスケールの翻訳を紹介します。
症状 | |
Grade0 | 激しい運動時を除き、息切れで困ることはない |
Grade1 | 急いで歩いた、あるいは緩い坂道を登った時、息切れして困る. |
Grade2 | 息切れのため同年齢の人よりもゆっくり歩く、あるいは自分のペースで平地を
歩くときでも、息継ぎのため立ち止まらなければならない |
Grade3 | 平地を約 100m、あるいは数分間歩いただけで息継ぎのため立ち止まる. |
Grade4 | 息切れが強くて外出できない、あるいは衣服の着脱だけで息切れする. |
MRCスケールを使用すると、どの程度の息切れなのか客観的に評価できるため、医療機関で問診を受けるときに質問された経験がある方もいらっしゃるでしょう。Grade1以上は、何らかの病気が隠れている可能性もあり、引き続き他の検査をおこなう必要があるといえます。また、自分の息切れの程度を把握することで、治療方針の決定に役立つので、気になる症状がある場合はMRCスケールで評価してみましょう。
参照:日本呼吸器学会雑誌第46巻第8号:「いったいどの MRC 息切れスケールを使えばよいのか?」
息切れの症状がある場合におこなう検査とは?
息切れの症状があり、病気の可能性があると考えられる場合、主に次のような検査をおこない原因を特定します。
- ・胸部レントゲン検査、胸部CT検査
- ・呼吸機能検査(スパイロメトリー)
- ・血液検査
- ・心電図
胸部レントゲン検査、胸部CT検査
胸部のレントゲン検査やCT検査にて、肺炎・肺がん・COPDなどの呼吸器の病気や、心不全などの心臓の病気を発見できます。
呼吸機能検査 (スパイロメトリー)
呼吸機能検査では、スパイロメーターという機械を用います。チューブの先端のマウスピースをくわえ、息を吸って吐いてを繰り返すことで、吸い込む空気の量・吐き出す空気の量・1回の呼吸の長さを測定します。スパイロメトリーの結果から以下の項目がわかります。
- ・肺活量
- ・努力性肺活量
- ・1秒率
- ・1秒量
肺活量は、ゆっくり呼吸して測定します。身長、性別、年齢などから算出した標準値の80%以上を正常としています。努力性肺活量では、深く息を吸って一気に吐き出した空気量を測定します。
肺活量が80%未満の場合、拘束性換気障害と判定されます。肺の弾性力の低下や肺の浮腫、胸郭運動の低下などが原因で肺が膨らまずに呼吸がしにくくなります。病気としては、間質性肺炎などが考えられます。
1秒率は、努力性肺活量に対し、最初の1秒間で吐き出した量(1秒量)の割合を示したものです。1秒率が70%未満の場合、閉塞性換気障害と判定されます。長期間気管支の炎症が続くと、粘膜や壁が厚くなって内腔が狭くなり、同時に気道分泌物が増加して空気の流れが閉塞され、呼吸がしにくくなるのです。病気としては、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などが考えられます。
COPDは、はじめは1秒率が低下しますが、閉塞によって徐々に呼吸がしにくくなり、肺活量も低下してきます。病気の進行に伴って拘束性換気障害と閉塞性換気障害が混在する場合もあり、混合性換気障害と呼ばれるようになります。
血液検査
血液検査では、CRP(炎症反応)、BNP(心臓への負担)、D-dimer(血栓形成傾向)、甲状腺ホルモンなどを測定します。他の検査と同時におこない、総合的に判断するために使用されています。
心電図検査
心臓は、電流の刺激によって動いており、その電流を測定することで心臓の働きを波形として確認できます。心電図では主に以下の点を調べています。
- ・脈の乱れ(不整脈)
- ・心筋の異常(心筋梗塞、狭心症など)
ただし、心電図では、機械を装着している間の心臓の様子しかわからないため、不定期に起こる不整脈などを感知できない場合もあります。そのような場合は、ホルター心電図と呼ばれる小型の装置で24時間心拍を測定します。
心電図検査は、息切れの原因が心臓の病気によると考えられる場合におこなわれます。ヒロオカクリニックでは、循環器内科にて心電図検査が可能です。気になる症状がある方は、一度ご相談ください。
息切れの原因となる病気とは?
ここまで、息切れの評価や検査について解説してきました。息切れは症状を確認するだけでは、その後の治療方針を決められません。
検査によって息切れの原因となる病気が診断されてはじめて、治療が開始されます。ここからは、息切れの原因となる病気について解説していきます。
気管支喘息
気管支喘息は、気管支に炎症が起こりわずかな刺激で気道が狭くなる病気です。咳、たん、喘鳴、息切れや呼吸困難などの症状が出やすいでしょう。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
COPDでは、気管支に炎症がおきて、気管支が細くなることによって空気の流れが低下します。また、気管支の先端にある肺胞が破壊されて、酸素の取り込みや二酸化炭素を排出する機能が低下します。
COPDの主な症状は、からだを動かしたときの息切れや、咳、たんです。COPDは治療をしても元に戻ることはないため、予防や進行を遅らせることが重要になります。喫煙している方は、まずは禁煙に取り組むようにしましょう。
肺がん
咳、たん、からだを動かしたときの息切れや動悸、胸部痛、発熱、たんに血が混じる血痰が主な症状です。肺がんに特徴的な症状はなく、胸部レントゲン検査、胸部CT検査から肺がんが疑われる場合には、肺の細胞や組織を採取し検査することで確定診断がおこなわれます。咳やたんの症状が長引き、発熱や血痰がみられる場合は、早めに医療機関で受診しましょう。
間質性肺炎
肺胞の壁や肺胞を取り囲み支えている組織を間質といいます。間質には血管が通っており、肺胞との間で酸素と二酸化炭素の交換がおこなわれています。
間質で炎症が起こり肺胞の壁が厚く硬くなると、ガス交換が十分行われずに呼吸がしにくくなります。この病気を間質性肺炎と言います。乾いた咳やからだを動かしたときの息切れが主な症状ですが、病気が進行するとじっとしていても息切れがみられるようになります。
気胸
気胸とは、肺に穴が空いて空気が漏れて肺がしぼんでしまう病気です。胸痛や息切れ、咳などが主な症状です。
心不全
心不全とは、様々な原因で、血液を全身に送るポンプ機能が十分に働かなくなった状態です。体に必要な酸素や栄養が足りなくなるので、坂道や階段を上るときの息切れや疲れを感じやすくなります。
また、からだの中に水分がたまって、むくみやすくなります。特に足のむくみは、初期症状として注意すべき症状です。体重の増加(1週間で2kg以上)や足のむくみなどがみられたら、医療機関で早めに受診しましょう。
狭心症や心筋梗塞
狭心症や心筋梗塞の主な症状は、胸部痛や胸のしめつけ感です。どちらも心臓の冠動脈が細くなり詰まりかかったり(狭心症)、詰まってしまったり(心筋梗塞)して、心臓への血流が悪くなり心臓の機能が低下してしまいます。
狭心症の場合、からだを動かしたときの息苦しさを感じることもあり、心筋梗塞では突然呼吸困難や心停止が起こることもあります。息苦しさを感じると、まず呼吸器の病気を思い浮かべがちですが、心臓の病気の可能性も十分あります。命に関わる場合もあるため、息切れが続く場合は受診をお勧めします。
過換気症候群
過換気症候群は、不安や緊張などのストレスを感じたときに、何度も息を吸ったり吐いたりして過呼吸の状態になって起こる様々な症状です。息切れ、呼吸困難、呼吸がはやい、しびれ、けいれん、頭痛、めまい、動悸、胸のしめつけ感などがみられます。
うつ病や不安症など精神神経系の病気のある方は、過換気症候群になりやすい傾向にあり、病気の治療が過換気症候群の発症を抑える効果があります。過換気症候群の方は、ストレスのかかりやすい場面を避けるようにしましょう。
貧血
体内に鉄分が不足すると、ヘモグロビンの生成が減少し、貧血になります。ヘモグロビンは酸素と結合し、からだ中に酸素を運ぶ働きをしており、ヘモグロビンの不足は、からだ中の細胞の酸素不足につながります。
貧血の主な症状は、倦怠感や息切れ、食欲不振、めまいや立ちくらみです。貧血は血液検査でわかるため、症状がいくつか当てはまる場合は、医療機関で検査しましょう。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる自己免疫疾患です。主な症状は、頻脈や甲状腺の腫れ、眼球突出で、そのほかに動悸、多汗、疲労感、手足の震え、息切れなどがみられます。
神経筋疾患
神経筋疾患とは、脳や脊髄、神経、筋肉などの異常によって、運動に障害が起こる病気です。代表的な病気にはパーキンソン病などがあります。神経筋疾患では、呼吸に関わる筋肉にも異常が生じて呼吸がしにくくなり、息切れや呼吸困難になることがあります。
まとめ
息切れは、日常生活の中の様々な場面で起こりますが、なかなか息切れが収まらなかったり、激しい運動以外で息切れしたりする場合には注意が必要です。気管支喘息やCOPDといった呼吸器の病気や、心不全などの心臓の病気、貧血、過換気症候群など、病気が原因となり息切れが起こるケースが多くあります。自覚症状を感じる頃には症状が進行している可能性もあるため、早めに医療機関で受診するようにしましょう。
ヒロオカクリニックでは、息切れに関する診察をおこなっております。胸部レントゲン、心電図、24時間心電図(ホルター心電図)、エルゴメーターによる負荷心電図、呼吸機能検査、心臓超音波検査を用いて、心臓や血管に関わる病気全般の診断および診察が可能です。お困りの方は、循環器内科をご予約のうえ、ご相談ください。