コロナ後遺症に警戒を「この症状が出ていないか」治療する医療機関を確保しておく
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新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ感染症)はつらい症状を引き起こしますが、これが治っても後遺症に悩まされることがあります。
厚生労働省はこれを「コロナ感染症の罹患後症状」と呼び、世間では「コロナ後遺症」といわれています(*1)。
三重苦に見舞われることもあるので、コロナ感染症を発症した方は、それに続くかもしれない後遺症に強く警戒してください。
そして万が一の事態に備えて、コロナ後遺症を診てくれる医療機関を確認しておいたほうがよいでしょう。
コロナ後遺症の三重苦とは
コロナ後遺症を発症すると、次の3つのことに苦しめられる可能性があります。
・コロナ後遺症それ自体の苦しさ
・コロナ感染症が治ったのに追い討ち
・すぐに受診できないこともある
1つ目は、コロナ後遺症の症状のつらさです。まったく症状が出ない人もいるのですが、重い症状に悩まされる人も少なくありません。
このようなケースも報告されています(*2)。フリーのカメラマンがコロナ感染症を発症し、それが治ったあとにコロナ後遺症と思われる症状で指の震えが止まらなくなりました。この人は「二度と自由にカメラを持つことができない」と不安に駆られたといいます。
具体的な症状については後段で詳しく紹介します。
2つ目は精神的なダメージです。
コロナ感染症だけでも相当つらいのに、それを乗り越えてようやく治ったと思ったらコロナ後遺症が追い討ちをかけます。患者さんは相当落ち込むはずです。
そして3つ目ですが、コロナ後遺症は重症化すると医療機関での治療が必要になるのですが、それが難しくなることがある、という報告があります。
複数のマスコミが、コロナ後遺症の治療に消極的な医療機関があることや、医療機関の対応に地域差があることなどを指摘しています(*3、*4)。「後遺症難民」という言葉があるほどです。
全身が悪化する
コロナ後遺症の症状は全身に起こりえます。厚生労働省が指摘している症状は次のとおり(*5)。
■コロナ後遺症の症状~厚生労働省が把握しているもの
疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下
コロナ後遺症について知らなかった人でも、コロナ感染症が呼吸器の病気であることから、息切れ、胸痛、咳、喀痰、疲労感はイメージしやすいと思います(*6)。
しかしそれだけにとどまらず、脱毛や記憶障害、抑うつといった、多くの人が意外に感じるような症状も多く含まれています。
コロナ後遺症の症状は、体の上から下まで、体の中から外まで、全体的に発生します。
医療現場からの、より詳細な症状の報告
コロナ後遺症の治療に熱心な地域の1つに埼玉県があります。同県と埼玉県医師会は共同で「新型コロナ後遺症(罹患後症状)診療の指針のための症例集」を作成しました(*7)。
この目的は、県内の医師からコロナ後遺症の症例や治療方法などを報告してもらい、そこで得た知見を医師たちにフィードバックすることです。
埼玉県医師会は「コロナ後遺症の診療では特別な手法は不要で、日常診療の延長で対応できるケースが大半を占める。地域のすべての医療機関で受診できる体制を構築したい」と述べています。
このなかで紹介されている症状を診療科ごとに紹介します。
呼吸器内科に関わる症状
呼吸器内科に関わるコロナ後遺症の症状は身体所見であり、胸部画像検査や血液検査を行っても異常がみつからないことが多いという特徴があります。
その場合、医師は患者さんに、自然経過で改善すると説明してよいとしています。
ただ、一部は重篤な肺炎に進んでしまうことがあり、こうなると呼吸器専門医による治療が必要になります。在宅酸素療法を行うこともあります。
耳鼻咽喉科に関わる症状
耳鼻咽喉科に関わるコロナ後遺症の症状は嗅覚障害とめまいがあります。
コロナ後遺症の嗅覚障害では、明らかな効果が示される治療法はない、としています。そのため一般的な嗅覚障害の治療法であるステロイド点鼻や亜鉛製剤の投与、嗅覚トレーニングなどを実施しています。
そしてこのような患者さんもいました。コロナ感染症で「死の恐怖と戦った」あとに、コロナ後遺症で嗅覚障害を引き起こしてQOLが著しく低下しました。これにより精神的なダメージを受けたといいます。
担当した医師は「耳鼻咽喉科でも精神的なサポートが重要であった」と報告していて、この病気の恐さがリアルに伝わってきます。
神経内科に関わる症状
神経内科に関わるコロナ後遺症の患者さんのなかには、明らかに体調が悪化しているのに、見た目や検査結果に異状がないことから周囲につらさを理解してもらえず、それが不安を増幅させていた人がいました。
関連症状には、疲労感、倦怠感、頭痛、下半身のむくみ、記憶力の低下、しびれなどがあります。
精神科に関わる症状
コロナ後遺症の精神科関連では、すべての患者さんに抑うつや不安状態がみられたといいます。うつ病と診断された患者さんもいましたが、病気の背景としては一貫性を認められない、という見解になりました。
症状の原因になるのは、身体的要因、心理的要因、社会的要因と分析しています。
身体的要因としては、コロナ感染症で髄膜炎や脳炎を発症した影響が示唆されています。
心理的要因としては、肺炎や呼吸苦などの自覚症状によって不安が募ったところに、家族や職場に対して罪悪感が生まれストレスが生じたと考えられています。
社会的要因には、療養環境に対する不満がありました。求める療養が受けられず、それがストレスになったのでしょう。
また、コロナ感染症が治って学校や職場に復帰するとき、心身の状態が不完全であるにも関わらず周囲の理解が得られず不適応状態に至った例もありました。
皮膚科に関わる症状
皮膚科に関わるコロナ後遺症には休止期脱毛、円形脱毛症、アトピー性皮膚炎による脱毛、蕁麻疹(じんましん)などがみられましたが、休止期脱毛以外はコロナ感染症との関連性は不明としています。
コロナ後遺症の休止期脱毛の患者さんは女性が9割近くを占め、前頭部から後頭部にかけての頭髪が減る傾向がみられました。
内科に関わる症状
コロナ後遺症を懸念して内科を受診した人の年代は10~50代が多かったそうです。
主な訴えは倦怠感で、治るまでに6カ月以上かかったケースもありました。倦怠感には、「コロナ感染症の療養が終わって活動量が増えたときにいつもと異なる倦怠感があった」「仕事や学校を休む必要があった」「いつもと同じ活動ができなかった」といったものがありました。
そして内科でも、コロナ後遺症患者さんに血液検査などの検査を行っても異常を認めることが難しかったといいます。
コロナ後遺症に関連した倦怠感については「原因が究明されてなく、薬物による治療が確立されてない」としています。
まとめに代えて~かかりつけ医などに治療の可否を確認しておく
コロナ感染症を発症した方は、コロナ後遺症に備えておいたほうがよいでしょう。
治療をしてくれた医師やかかりつけ医などに、コロナ後遺症を発症したら診てもらえるか確認しておいてください。
もちろんコロナ後遺症を発症しない方もいますし、発症しても軽度で済んでいる方もいます。
しかし重症化するとかなり苦しむことになり、そのとき頼りになるのは医療機関だけです。
ところが多くの医療機関にとって、コロナ後遺症の治療は初めてのことであるか、不慣れです。医師たちも情報を集めながら治療を進めています。
そのため患者さんは自衛策として、コロナ後遺症を治療できる(治療してくれる)医療機関の情報を集めたほうがよい、といえるわけです。
万が一のときに診てもらえる医療機関がわかっていれば、不安が減ると思います。