脂質異常症の症状とは?原因や治療法について解説
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脂質異常症は、中年期に多く発症する身近な病気ですが、病気そのものに自覚症状がないことから安易に捉えられやすく見過ごされやすい病気の一つでもあります。実際に、健康診断や人間ドックを受けたとき、コレステロールが高いと指摘された経験がある方もいるのではないでしょうか。脂質異常症は特徴的な症状の出現はないものの進行することによって脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な病気を引き起こすことがあります。
この記事では、脂質異常症とは一体どのような病気なのか、なぜ脂質が多すぎると身体にとって良くないのか、起こりうる合併症や予防するための対策についてエビデンスに基づいて詳しく解説します。将来的な病気を予防するためにも、健康維持のための知識としてぜひ参考にしてみてください。
脂質異常症とは何か
脂質異常症とは血液に含まれている脂質(中性脂肪やコレステロール)の量が正常域よりも多い状態のことをいいます。2006年までは高脂血症という名前で診断されていました。
しかし、脂質異常症はコレステロールが高い場合に限らずHDL(善玉)コレステロールが低い場合も該当することから「高脂血症」という名称は適切ではないと判断され、2007年から「脂質異常症」という名称へ改められました。名称が変更されてから比較的年数が少ないこと、医療機関によってはいずれかの名称で現在も使用されていることから、混同しやすくなっていますがどちらも同じ病気を示しています。
脂質異常症の種類
血液中に含まれる脂肪は全部で3種類あります。それぞれ種類によって、体内でのはたらきや基準となる量が異なります。
高トリグリセライド血症(中性脂肪)
中性脂肪が多すぎる状態です。主にアルコールや肥満との関係が深く、中高年の男性に多いタイプです。中性脂肪は体内でエネルギーの貯蔵と臓器を衝撃から守る役割を担っています。
高LDL(悪玉)コレステロール血症
LDL(悪玉)コレステロールが多すぎる状態です。LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ役割を担っています。適切な量であれば身体に悪さをすることはない物質ですが、増えすぎると血管の壁に付着していき、動脈硬化の要因となることがあります。
身体に悪影響を及ぼすことがあることから、別名「悪玉コレステロール」と呼ばれています。性別問わず最も多い脂質異常症のタイプです。
低HDLコレステロール血症
HDL(善玉)コレステロールが少なすぎる状態です。HDLコレステロールは増えすぎたコレステロールを回収し、血中内の脂質のバランスを保つ役割を持っています。
LDLコレステロールとは反対に動脈硬化を抑制するはたらきがあることから、別名「善玉コレステロール」と呼ばれています。HDLコレステロールは脂質バランスを維持するための重要な物質ですが、量が少なくなると不要なコレステロールが回収されず、血中内で蓄積され続けてしまい動脈硬化を引き起こす原因となることがあります。
脂質異常症の症状について
脂質異常症は発症しても直接的に身体へ大きな影響を与えることが少ないことから、診断に至るまでに長い時間を要すことがあります。この項目では、脂質異常症を発症すると身体にとってどのような影響が起こるのかについて解説します。
自覚症状がないため気付きにくい
脂質異常症の大きな特徴は、他の病気と比べて自覚症状がほとんどないことです。そのため脂質異常症の診断を受けた人の多くは、健康診断などの血液検査でコレステロールの異常値を指摘されて発覚しています。
自覚症状はなくとも発覚した時点ですぐに改善を試みなければ、症状は確実に進行します。そして、最終的に重篤な病気を引き起こすきっかけとなります。このような特徴があることから脂質異常症は別名「サイレントキラー」とも呼ばれています。自覚がなく、客観的データでしか現状を把握することができないので診断される頃には状態もかなり進行していたというケースも少なくありません。
身体的変化が出現することがある
自覚症状はほとんどないものの、家族性高コレステロール血症やLDLコレステロール血症の症状が進行すると、眼の縁やアキレス腱の中に特徴的なコレステロールの塊(黄色腫)が出現することがあります。通常の脂質異常症であれば身体的所見が出現することはほとんどないですが、家族性の脂質異常症の場合や症状が進行した場合は出現の可能性が高いので、検査結果だけでなく身体の外観的変化にも注意しましょう。
脂質異常症が進行するとどうなるか
脂質異常症が進行すると、血液内に脂質が蓄積されていきます。蓄積された脂質は徐々に血管の壁に付着し、プラーク(粥腫)という脂肪の塊を作り出します。プラークは壊れやすくて柔らかい性質を持っていますが、血管の内側にある壁に溜まり続けることによって、徐々に分厚く、硬くなっていきます。
最終的にプラークが増大することにより、血管内が狭くなり、血流がつまりやすい状態へと変化していきます。この事象のことを動脈硬化といいます。コレステロールの異常値が高いほどに発生率も共に高まるため、コレステロールの状態を把握することが重要な指標となります。
脂質異常症による合併症とは
脂質異常症によって発生する動脈硬化は、全身を巡る血液のあらゆる場所で発生します。そして血液がつまる場所によっては動脈硬化による合併症という形で重篤な病気を引き起こすことがあります。例えば心臓の血管に動脈硬化を起こした場合、心臓に栄養や酸素が届かなくなることで胸が痛く苦しくなる狭心症や、心臓を動かす重要な筋肉(心筋)の壊死にともなう心筋梗塞を発症します。
脳の動脈に発生し血液の流れが断たれると、脳梗塞を起こします。また、動脈硬化によって脆くなった脳の血管が破裂して脳出血を起こすこともあります。このように、動脈硬化は発生する場所によっては生命を脅かす危険な病気を発症するリスクを高めるということを理解しておきましょう。
脂質異常症の原因とは
脂質異常症が発生する原因は原発生(遺伝性)と続発性(生活習慣や薬剤による影響など)に分類されます。この項目では、脂質異常症はなぜ起こるのか、その原因について解説します。
生活習慣の乱れ
脂質異常症は、アルコールの多飲や喫煙、運動不足や肥満、過食といった生活習慣の乱れによって起こります。とくに、食生活は脂質異常症と関係が最も深く、偏食気味でバランスの悪い食生活を送っている場合や脂肪分の多い食事、糖類を多く含む菓子類を摂取している人などは脂質を必要以上に取りすぎてしまうため発症リスクが非常に高い傾向にあります。
遺伝の影響
脂質異常症は生活習慣の影響だけではなく、遺伝によって起こる「家族性高コレステロール血症」という病気もあります。家族性高コレステロール血症は、血縁者にコレステロール血症を患った人がいた場合に遺伝的に起こる病気です。発症頻度は軽症の例は500人に1人以上、重症の例は100万人に1人以上と言われており、日本では全体で25万人以上と推定されています。
通常の脂質異常症は中年期に多く発症しますが、遺伝性の場合は年齢問わず早い段階でLDLコレステロール値のみが異常値を示します。小児期からでも発症することがあります。本来はLDL(悪玉)コレステロールは肝臓で処理され、コレステロールの量のバランスを保っています。
しかし家族性脂質異常症は、LDLコレステロールが肝臓で処理できなくなり血中内で蓄積され続けます。その結果、動脈硬化を早期的に引き起こし狭心症や心筋梗塞を発症するという経過を辿ります。
このような特徴があることから、遺伝性の場合は発症すると進行が早く、重篤な疾患に繋がりやすくなっています。いかに早く病気を見つけ、予防策を実施することができるかが重要となります。血縁者にコレステロール疾患の人がいる場合や、若い時からコレステロール値のみが異常値を示している場合は、定期的に健康診断を受けて体調の変化に注意しておきましょう。
そして脂質異常症の原因は生活習慣だけではなく遺伝も関係することから、健康的な生活を送っている人は発症しないというわけではありません。場合によっては年齢や性別を問わず誰もが起こり得る病気であることも理解しておきましょう。
診断基準
LDLコレステロール | 140mg/dl以上 | 高LDLコレステロール血症 |
120〜139mg/dl | 境界域高LDLコレステロール血症 | |
HDLコレステロール | 40mg/dl未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド(中性脂肪) | 150mg/dl以上(空腹時採血) | 高トリグリセライド血症 |
175mg/dl以上(随時採血) | ||
Non-HDLコレステロール | 170mg/dl以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150〜169mg/dl | 境界域高non-HDLコレステロール血症 |
このように血中の脂質の量は各種類によって必要量が異なります。検査結果を読み取る上で注意しておきたいこととして、検査結果の値が基準値を僅かに上回っていても、必ずしも脂質異常症を発症しているとは限りません。あくまでも基準値は病気を診断するための指標です。
採血結果において、基準値を上回る、または下回るとは、記載されている数よりもはるかに高い数値のことを示します。多少誤差がある程度であれば、基本的には様子観察となることが多く決して病気であるとは断定できません。
脂質異常症の治療方法について
明確な治療方法はない
脂質異常症を改善するためには、まずは生活習慣の見直しから始まります。具体的には、適正体重を維持すること、食生活を見直し、脂質が少なく栄養バランスの良い食事を摂取することや適度な運動が求められます。基本的には他の病気の治療のように直接的に原因を改善するものではないため、長期的な管理が必要となります。
症状の程度によっては薬剤治療を実施
生活習慣の改善を試みるも症状の改善が認められない場合や、基礎疾患で心疾患系の病気を持っている人、合併症の発生リスクが高いと判断された場合は薬剤療法も併用して行われます。主に異常値を示す脂質の種類に応じた薬剤をその人の状態に応じて医師が判断し、処方します。薬剤療法が開始となった場合は、自己判断で中止したり減量したりしないように注意しましょう。
脂質異常症を予防するためには
食習慣に注意する
脂質異常症を予防するために、最も注意しておきたいことは食習慣です。好きなときに好きなだけ摂取したり、脂質が多い食事ばかりを好んで食べたりしていませんか?
日本人の食生活が欧米化することにより、飽和脂肪酸を含む食事も以前に比べ多く摂取されるようになりました。例えばバターや生クリームなどの油脂食品やインスタントラーメンなど加工食品に多く含まれています。飽和脂肪酸を取りすぎてしまうとLDL(悪玉)コレステロールが増加しやすくなるので、できるだけ摂取を控えるまたは摂取頻度を減らすことを意識しましょう。
その他にもお菓子の取りすぎやアルコールの多飲、揚げ物の多量摂取は中性脂肪を増やします。摂取する脂質の量はその時々の状況に応じて調整することが大切です。今までの生活習慣をすぐに変えることは難しい場合もありますが、まずは食生活を見直し、すぐに辞めるのではなく回数を減らすことを目標にして予防を始めてみましょう。
検査結果をそのままにしない
脂質異常症は自覚症状がないことから、コレステロールの異常値を指摘されるだけでは、単純にコレステロールが多いだけであると安易に捉えられやすくなっています。世間的な脂質異常症に対する危機意識は比較的低いのが現状です。
しかし、脂質異常症は発症すると改善を試みない限り確実に進行します。症状の改善を図るためには時間を要すことから、早期発見と予防策の試みが非常に重要となります。まずはコレステロールに関する指摘を受けた場合は生活習慣を見直す機会と捉え、身近にできることから始めていきましょう。
まとめ
脂質異常症は自覚症状がないことから、世間的なコレステロールに対する病識は低いという現状があります。しかし今はまだ症状はなくとも、放っておくと必ず進行します。進行して動脈硬化を起こしてしまうと本来は予防できたはずの病気まで引き起こしてしまうことがあります。
そして脂質異常症を治すためには生活習慣の改善が第一選択となるためすぐには、症状の改善も認められません。他の病気と比べて非常に発症から進行の程度に至るまで分かりにくい病気であるといえます。
だからこそ、いかに早く予防的行動をとることができるかが今後の健康状態を左右する重要なポイントとなります。将来的な病気を予防するためにも、適度な運動や食習慣の見直し、生活習慣を整え、健康的な生活を心がけましょう。
ヒロオカクリニックでは脂質異常症の診察をおこなっております。お困りの方は、循環器内科をご予約のうえ、ご相談ください。
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