胃酸過多は胃酸が増えすぎる病気、胃痛や胸やけを引き起こす
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「酸」と聞いただけでなんとなく怖い印象を受けます。それが「多すぎる」のが胃酸過多なので、名称だけでこの病気が油断できないことがわかります。
胃酸過多は、胃痛や胸やけを引き起こします。
ただ、胃酸は人の健康に欠かせない物質です。
もし胃のなかから胃酸が消えたら、お腹のなかに細菌が繁殖したり、食べたものの消化や吸収が進まなかったりします。
胃酸は、少なすぎても多すぎても駄目なのですが、適量は必要になるという、バランスがとても重要な物質なのです。
胃酸は塩酸、胃液の成分
胃酸過多を説明する前に、胃酸について解説します。
胃酸と胃液は、何が違うのでしょうか。
胃が塩酸をつくっている
胃酸は、胃液の成分の1つです。そして胃酸の正体は塩酸(HCl)です。
塩酸は犯罪に使われることがあるくらい危険な物質で、濃度10%超の塩酸は法律で劇物に指定されていて、販売、貯蔵、消費、輸送するときは行政機関の規制を受けます。
なぜそのような危険な物質が胃のなかにあるのでしょうか。もちろん、塩酸を飲んでいるわけではありません。
胃壁から水素イオン(H+)と塩化物イオン(Cl-)が分泌され、これが合わさって塩酸(HCl)ができます。胃は、塩酸の製造工場になっているのです。
胃酸は殺菌する
胃酸の主な仕事は、殺菌です。
食べる行為は、ものを口のなかに入れることで始まります。口は外に向かって開いているので何でも入れることができてしまいます。人は極力、食べられないものや食べてはいけないものを排除してからものを口のなかに入れますし、口のなかで咀嚼すれば異物を感知して取り除くことができます。
しかし細菌やウイルスのような微小なものが食べ物のなかに紛れ込んでいると、それを飲み込んでしまいます。
細菌やウイルスを飲み込んでも、胃に胃酸があればそれを殺菌でき無害化できます。
胃酸は消化を助ける
口のなかに入れた食べ物は、そのままの状態では、そのなかに含まれる栄養素を体内に取り込むことができません。吸収するには、食べ物を消化する必要があります。
胃のなかの食べ物を消化するのはペプシンという消化酵素で、これも胃液に含まれます。
胃酸は、ペプシンを活性化します。胃酸が出ることで、効率よく消化できるようになります。
胃酸はミネラルの吸収を助ける
鉄、亜鉛、マグネシウムは、化学的工学的には金属ですが、医学的栄養学的にはミネラルと呼ばれ、健康に欠かせない物質です。
ところがこれらのミネラルは金属なので、簡単には体に吸収できません。
それを助けるのが胃酸です。胃酸がないと、いくら鉄分を多く含む食材を食べても鉄を取り込むことができないのです。
胃酸過多は健康を害するので治療では胃酸を抑える薬を使いますが、これを使いすぎると胃酸が減ってしまいミネラルの吸収ができなくなり、それによって健康が害されることがあります。
このことからも、胃酸が適量でなければならないことがわかります。
胃酸過多の原因
胃酸過多は、胃酸を出すシチュエーションが続くことで発生します。
胃酸は、神経伝達物質が出てくると分泌されます。
食事をするときに、脳が「おいしそう」「いい香りだ」と認識すると神経伝達物質が放出され胃酸が出てくる仕組みです。
また、アルコールやカフェインを摂取しても、胃酸が多く出てしまいます。
分泌された胃酸が、殺菌や消化ですべて使われれば胃酸過多になりませんが、強く「おいしそう」と思ったり、アルコールを多く摂ったりすると胃酸が過剰に分泌されて胃酸が余ってしまい、胃酸過多になります。
また、胃酸という塩酸に胃壁の内側がさらされているのに胃が溶けないのは、胃壁の表面が粘液に覆われているからです。粘液の厚みは1ミリもあり、胃壁をしっかり守っています。
そのため、胃酸が少し多いだけならば、粘液が胃壁を守り健康を害することがありません。
しかし胃が疲弊して粘液の分泌が減ってしまうと、胃酸過多によって胃が傷ついてしまいます。
胃酸過多の原因は、1)胃酸が異常に増えることと、2)粘液が減ること、の2つになります。
そして胃酸過多が「癖」になってしまうと、食事をしていなくても胃酸の分泌が増えてしまいます。
胃酸過多の症状
胃酸過多の症状は次のとおりです。
・胃痛
・胃もたれ
・胸やけ
これらの症状だけなら、「我慢すればやりすごすことができそう」と思うかもしれませんが、甘くみてはいけません。
胃炎、そして胃潰瘍へ
胃酸過多を感じたら、つまり、胃痛や胃もたれ、胸やけを感じたらすぐに治療に取りかかたほうがよいでしょう。
胃酸過多を放置すると、胃炎に進み、さらに胃潰瘍を発症する可能性があるからです。
胃酸過多、胃炎、胃潰瘍は病名がわかれていますが、同じ病気の進化形と考えることもできます。
胃酸過多で胃酸が胃壁を傷つけると炎症が起き、胃炎になります。
胃炎が長く続くと、胃壁がただれたり傷がえぐれたりして潰瘍状態になり、病名が胃潰瘍に変わります。
胃潰瘍になると出血したり、最悪、胃に穴が開いてしまいます。
胃酸過多でとどめるようにしたいものです。
胃酸過多の治療
胃酸過多の治療では、プロトンポンプ阻害薬という薬を使います。飲み薬です。
これは胃酸の分泌を抑えます。
食事の30~60分前に飲み、大体8週間続けます。
プロトンポンプ阻害薬が効かない場合は、消化管運動機能改善薬、食道を胃酸の刺激から守る制酸薬、漢方などを使うこともあります。
そして暴飲暴食などの食生活の乱れを修正することも、重要な治療になります。
まとめ~おいしい食事を楽しむために
胃酸は人が生きるために必要な物質でありながら、少なすぎても多すぎても困る物質です。
胃酸を適量に維持するためには、正しい食生活が必須になりますが、おいしいものの誘惑は強く、つい胃酸が多く出る食事をしてしまいます。
胃酸過多の症状である胃痛、胃もたれ、胸やけが現れたら、なるべく早く治療に取りかかりましょう。
胃酸過多から胃炎や胃潰瘍に進んでしまったら、それこそおいしいものを我慢しなければなりません。そうならないための早期治療です。