多汗症とは?原因や症状、治し方について解説
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気温が高いときや緊張したとき、辛いものを食べたときなどには、誰でも汗をかくものです。しかし、「ほかの人と汗のかきかたが違うかもしれない…」と悩んでいる人もいるのではないでしょうか?
多汗症はただの「汗っかき」とは異なり病気である、ということを認識している人は多くはないでしょう。多汗症にはさまざまな原因が考えられ、その原因によって治し方も変わってきます。
この記事では、多汗症の症状や原因、治し方などについて詳しく解説していきます。多汗症の症状があるかを確認できる「多汗症チェックリスト」も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
多汗症とは?
多汗症とは、手のひら、わき、足の裏などの限られた部位、または全身に多量の汗が出る疾患です。たくさんの汗をかくだけの「汗っかき体質」とは異なり、以下のような特徴があります。
- ●多くの場合、小児期に発症し、成人になっても症状が続く。一般的な小児疾患と違い、15歳ごろになっても症状がおさまることがない。
- ●常に汗が出ているわけではなく、多汗と無汗の状態が交互にみられる。精神的緊張や、気温や運動による体温の上昇をきっかけに多汗になる。
- ●体の左右で同時に発汗する。発汗しやすいのは、手のひら・顔・わき・足の裏・頭部の5か所で、通常、複数の部位で多汗になる。
このように、多汗症では病的な発汗がみられます。しかし、病気として認識していないために、症状があっても治し方がわからず、放置している人も数多くいるのが現状です。
多汗症の種類
多汗症は、その原因と汗が出る部位で分類されています。
原因別では、あきらかな原因のない「原発性」と何らかの疾患や薬が原因の「続発性」、部位別では、全身に多くの汗が出る「全身性」と体の特定の部位に多くの汗が出る「局所性」にそれぞれ分類されます。
原発性全身多汗症 | 原因があきらかではなく、全身に多くの汗が出る |
原発性局所多汗症 | 原因があきらかではなく、体の特定の部位に多くの汗が出る |
続発性全身多汗症 | 疾患や薬が原因で、全身に多くの汗が出る |
続発性局所多汗症 | 疾患や薬が原因で、体の特定の部位に多くの汗が出る |
また、局所性多汗症は、汗をかく部位によって病名がつけられています。
掌蹠(しょうせき)多汗症 | 手のひらと足の裏の両方に多汗がみられる |
手掌(しゅしょう)多汗症 | 手のひらに多汗がみられる |
足蹠(そくせき)多汗症 | 足の裏に多汗がみられる |
腋窩(えきか)多汗症 | わきの下に多汗がみられる |
局所性多汗症には、症状があらわれる年齢にそれぞれ特徴があります。掌蹠多汗症では幼少児期や思春期、腋窩多汗症では第二次性徴期に症状があらわれることが多く、頭部や顔面は、高校生以上になって症状を自覚することが多いようです。
多汗症の症状
人間は、常に体温を一定に保たなければ生きていけない「恒温動物」です。しかし、気温が高いときや運動をしたとき、食べたものをエネルギーに変えるときなどには体温が上昇します。そのようなとき、全身の皮膚表面にあるエクリン汗腺から汗が分泌され、蒸発する際に気化熱を奪って体温を下げようとします。このエクリン汗腺の機能が異常に高まることで、多汗症を発症します。
具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 「字を書くと汗で文字がにじむ」
- 「洋服の汗ジミが気になってしまう」
- 「人と対面する仕事はしたくない」
- 「PCやスマホが湿気で故障しがちだ」
- 「手をつないだり、握手したりすることに抵抗がある」
また、発汗量の多さから、毛穴が詰まって皮膚トラブルがみられたり、においを発したりすることもあります。このように、多汗症の症状はストレスをまねく原因にもなり、社会的な苦痛を感じやすい疾患だといえます。
多汗症のレベル
多汗症にはレベルがあり、以下のように分類されています。
レベル1(軽度) | 触ると皮膚がしっとり湿っている、または皮膚が濡れてツヤツヤして見える |
レベル2(中度) | 皮膚の上で汗が水滴を作っているが、滴り落ちるほどではない |
レベル3(重度) | 汗をかく状況ではなくても、水滴となった汗が皮膚から滴り落ちる |
レベル1は、自分では汗が多いと自覚していても他人には気づかれないことが多く、生活するうえでも大きな問題にはなりません。しかし、レベル2やレベル3になると、日常生活に支障をきたすだけではなく、人とのコミュニケーションに影響がでることもあります。恥ずかしいという思いから、自分なりに治し方を模索する人も多いですが、症状が重くならないうちに医療機関を受診することが重要です。
多汗症のレベル判定のために用いられる検査やスケールには、ほかにもいくつか種類があります。
なかでもHDSS(Hyperhidrosis disease severity scale)は、重症度の判定に多く利用されています。
スコア1 | 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない |
スコア2 | 発汗は我慢できるものの、日常生活にときどき支障がある。 |
スコア3 | 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある。 |
スコア4 | 発汗に我慢ができず、日常生活に常に支障がある。 |
上記のように、患者さんの自覚症状と日常生活への支障の程度からレベルを判定し、スコアが3と4の場合、重症とされます。
多汗症の原因
前述のとおり、多汗症は疾患や薬が原因の「続発性」と、あきらかな原因のない「原発性」とに分類されます。「続発性」の場合、「全身性」と「局所性」で原因が異なります。
また、原因があきらかではない原発性多汗症においても、以下のような要因が示唆されています。
- ●家族に同じような症状がみられる
- ●自律神経が乱れやすい(発汗をうながす交感神経が人よりも興奮しやすい)
- ●わきのにおいが強い(通常の人よりもアポクリン汗腺が大きく、汗の分泌量が多い)
ここでは、「全身性」と「局所性」の観点から、おもな原因について詳しくみていきます。
全身性多汗症の原因
全身性多汗症のおもな原因は、以下のとおりです。
- ●温熱性発汗:運動、高温の環境、発熱など
- ●内分泌・代謝性発汗:甲状腺機能亢進症、糖尿病、更年期障害、肥満症など
- ●神経障害による発汗:パーキンソン病など
- ●薬の副作用による発汗:非ステロイド抗炎症薬、ステロイド薬、向精神薬、睡眠導入薬など
- ●感染症による発汗:結核、敗血症など
- ●特発性発汗:原因不明
薬の副作用による発汗については、もし処方されている薬に該当するものがある場合、一度かかりつけ医に確認してみるとよいでしょう。
局所性多汗症の原因
局所性多汗症のおもな原因は、以下のとおりです。
- ●精神性発汗:精神的緊張によるもの(手掌、足底、腋窩など)
- ●味覚性発汗:辛いものを食べたとき(顔面)
- ●神経障害による発汗:胸部交感神経切除後など(体幹)
- ●その他:皮膚疾患による局所多汗症など
局所性多汗症の原因で最も多いのは、精神的緊張によるものだといわれています。また、手のひらと足の裏以外の部位は神経疾患が原因のケースが多く、左右非対称に発汗がみられる場合は、さらにその可能性が高くなります。
多汗症チェックリスト
多量の汗に困っていても、「ただの汗っかき」と自己判断して放置している人も少なくありません。
少しでも心当たりのある人は、多汗症のセルフチェックをしてみましょう。
- ●手のひらや足の裏、わきが常に湿っている
- ●暑くない、もしくは運動した後でもないのに汗をかく
- ●緊張すると多量の汗をかく
- ●手汗で文字がにじむなど、日常生活に支障をきたしている
- ●汗をかいて、一日に何度も着替える必要がある
- ●わきの下の汗ジミが気になる
- ●汗をかかないか心配で、仕事や勉強に集中できない
- ●睡眠時や落ち着いているときは汗をかかない
- ●家族に多汗症の人がいる
あてはまる項目が多いほど、多汗症である可能性も高くなります。また、日常生活で以上のような症状を、ときどき、またはいつも感じている場合は、重症の多汗症であることが考えられます。
セルフチェックの結果、多汗症が疑われる人は早めに医療機関を受診しましょう。きちんと診断・治療を受けることが、最良の治し方でもあります。
多汗症の予防法
多汗症の原因が交感神経優位によるものだと診断された場合、普段の生活を見なおすことで発症のリスクを低減することができます。ここでは、多汗症を予防するための4つのポイントを紹介します。
食生活の改善
辛味や酸味の強い食べものには、交感神経の働きを優位にする作用があり、食べたり飲んだりすることで汗をかきやすい状態になってしまいます。このような刺激物を摂取し過ぎないように気をつけましょう。
また、カフェインも交感神経を優位にするので、コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどは控えたほうがよいでしょう。また、肥満の人は多汗症になりやすい傾向にあります。日ごろから、栄養バランスの整った食事を、3食きちんと摂ることが大切です。
生活習慣の改善
食べ過ぎや飲み過ぎ、喫煙、睡眠不足も交感神経を優位にします。
ニコチンには中枢神経興奮剤が含まれているため、過剰に摂取すると発汗が促進されます。また、睡眠不足や睡眠の質が低下すると、交感神経優位の状態が長くなるため注意しましょう。多汗症予防のためにも、生活習慣を見なおすことはとても重要です。
入浴や有酸素運動
入浴や有酸素運動は、適度に汗をかくことで汗腺機能を鍛えられるため、多汗症の予防にも有効な方法です。入浴の前には、コップ1杯の水を飲むとしっかり汗をかくことができます。
また、有酸素運動は1日30分を目安におこなうとよいでしょう。ウォーキング、ジョギングや水泳など、自分の取り入れやすいものを、できる範囲で始めてみましょう。
リラックスタイムをつくる
一日のなかで、心からリラックスできる時間をつくり、上手にストレスを解消しましょう。半身浴をしたり、好きな音楽をきいたり、あるいは何も考えずに体を休めたりすることで、交感神経が優位になることを防ぎます。
多汗症の治し方
医療機関でおこなわれている治療には、いくつかの種類があります。どのような治し方をするかは、多汗症の発症している部位や症状のレベルによって違いがあります。
また、治し方によっては、副作用があったり、保険適用されていないため費用がかかったりするものがあります。治療をはじめるにあたっては、医師と納得いくまで相談することをおすすめします。
それでは、医療機関でおこなわれている治療の代表的なものを紹介します。
外用薬での治療
多汗症の治療に多く用いられている外用薬には、塩化アルミニウム製剤と外用抗コリン薬があります。
塩化アルミニウム製剤
治療の第一選択として推奨されている液体の塗り薬です。数日かけて皮膚の表面に塗り、汗の出口にふたをつくって汗を閉じ込めます。ただし、約半数にかぶれの副作用がみられ、発汗量が多い場合は効果が限定的となることがあります。また、健康保険適用外のため、自費での処方となります。医療機関によって費用は異なりますが、2~3か月分で1,000円~2,000円程度と考えてよいでしょう。
外用抗コリン薬
外用抗コリン薬は、もうひとつの第一選択として使用されている外用薬です。交感神経からの汗を出す指令を汗腺が受け取れないようにすることで、発汗量を減らします。2020年には、外用抗コリン薬のソフピロニウム臭化物が保険適用となりました。発汗もほぼコントロールできるようになり、塗った部分にだけ作用するため、副作用が少ないことも利点です。
内服薬での治療
多汗症の治療には、そのケースに応じて、内服抗コリン薬、漢方薬、抗不安薬が使用されています。
内服抗コリン薬
外用抗コリン剤と同様に、神経伝達物質の働きを抑制して発汗をコントロールする薬です。現在は、プロパンテリン臭化物とソフピロニウム臭化物が保険適用されています。副作用は比較的少ないとされていますが、全身の発汗が抑制されるため、夏は熱中症のリスクがあります。服用にあたっては、医師とよく相談することが必要です。
漢方薬
漢方薬は、直接的に多汗の症状を抑える作用はありませんが、身体の内側から体質改善を行い、余分な汗をかきにくくします。ここでは、多汗症に効果的といわれている漢方薬を3つ紹介します。
- ●桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
神経の高ぶりを落ち着かせ、多汗症によって多くの汗が流れ出るのを抑えます。虚弱体質の人でも使用できる漢方薬です。 - ●瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)
多汗症と関係が深いといわれる女性ホルモンのバランスを整え、疲労や身体のほてりをともなう倦怠感を緩和します。 - ●柴胡加竜骨牡蠣湯(さいかりゅうこつぼれいとう)
気のめぐりを整えて心を落ち着かせ、体内の熱を排出することで汗の分泌を抑える効果が期待できます。
向不安薬
発汗によるストレスで、心理的に不安定になってしまうことは少なくありません。そのような場合、自律神経失調症に適応がある薬や、抗コリン作用をもつ抗不安薬が処方されることがあります。しかし、どちらも多汗症への適応がない薬剤であるため、自費診療になる可能性があることを理解しておきましょう。
その他の治療法
多汗症の治し方としては、第一選択として外用薬、そのつぎに内服薬が用いられることが多いです。
ここでは、その他の治療法を3つ紹介します。
水道水イオントフォレーシス
多汗の症状がみられる手のひらや足の裏を、水道水を入れた容器に手を10~15分入 れ、専用の機器から電流を流す治療法です。電流により生じた水素イオンが汗腺の働きを低下させ、汗の分泌を抑えます。保険適用される治療は週1回ですが、効果は長く持続しません。
ボツリヌス毒素製剤の注射
これまでに紹介した治療に効果が見られない場合、その次に選択されることが多いのが、ボツリヌス毒素製剤の注射です。施術のときの痛みのコントロールが難しく、効果の持続期間にも個人差があります。また、わきの下以外への施術は保険適用外であるため、費用や効果を十分に検討する必要があります。
交感神経遮断術
治し方としては最終手段といえるのが、交感神経遮断術です。胸部の交感神経を切除、もしくは焼灼して多汗を抑える治療法です。腹腔鏡下でおこなわれるため傷口も小さく、手術時間も10分程度です。確実に神経幹が遮断された場合は、手術直後から汗が止まります。ただし、約90%の人に背中、胸、胴回り、お尻、ふともも、ひざの裏などに汗が増えたと感じる「代償性発汗」を発症します。合併症などのリスクについて、手術前に必ず医師に確認しましょう。
まとめ
多汗症は、手のひら・顔・わき・足の裏・頭部などの部位、または全身に多量の汗をかく疾患です。
人によって原因や症状が違うため、さまざまな検査や、症状のレベルを判断するスケールが用いられています。治療法には、外用薬・内服薬・注射・手術などがありますが、副作用や合併症のリスク、費用(保険適用されているか、されていないか)について、慎重に検討する必要があります。
また、多汗症には確実な予防法はありませんが、生活習慣を見なおすことで発症のリスクをさげることができると紹介しました。しかし、すでに多汗症を発症している場合は、重症化するまえに医療機関を受診することが重要です。心当たりのある人は「多汗症チェックリスト」で症状があるかを確認してみましょう。
多汗症は「汗」というデリケートなものにかかわる病気のため、相談しづらく、病院へ行くことをためらう人も多いでしょう。そのような人には「オンライン診療」という方法があります。
自宅からビデオ通話で診察を受けられるシステムで、提携する薬局に処方せんを送ってもらうことも可能です。ほかの人と対面することがないので、プライバシーも守られ、安心して受診することができます。
ヒロオカクリニックでは、多汗症に悩んでいる方にオンライン診療を提供しています。ひとりで治し方に悩んでいる方もぜひ一度、こちらまでご相談ください。