日常生活にひそむ「低体温症」ストレスやダイエットで発症することも
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「低体温症」と聞くと、冬山で遭難した登山家が寒さに凍えて危機的状況に陥る、といった場面をイメージするかもしれません。
しかしそのイメージは、半分しかあっていません。
まず、低体温症は屋内で発症することのほうが、屋外で発症するより多く、その多くは高齢者です(*1)。
しかし、低体温症によって危機的状況に陥りかねない、という点は事実です。
低体温症は、ストレス、極度の体重減、老化などが原因で起きる、身近な恐い病気といえます。
実は低体温にならないほうが不思議
低体温症を理解するには、温度に関する基礎知識が必要です。
温度には一定になろうとする性質があります。熱い湯と冷たい水を混ぜると、ぬるい水になります。これは、熱い湯の温度も冷たい水の温度も、一定の温度になろうとする性質を持っているからです。
この理屈からいうと、人の体が低体温にならないほうが不思議に感じられます。
なぜなら、例えば日本の年間平均気温は16.5度(2020年)しかありません(*2)。一方で、日本人の平均体温は36.89度です(*3)。
気温と体温は20度以上も違うのに、なぜ体温は、気温に近づかないのでしょうか。
体温が28度以下になると、重症の低体温症と認定されるので、体温が気温と同じ16.5度になってしまったら生きていられません。
つまり人が生きていられるのは、体温が気温に近づかないからです。
体温も温度なので、気温に近づこうとします。しかし「体の仕組み」が、気温に近づくことを阻止しているのです。
正常な体温と低体温症の症状
平均体温は36.89度ですが、体の内部になるとさらに温度が上がります。肝臓で38.5度、直腸で38.0度ほどとされています。
したがって人の体温は「ざっくり40度ぐらい」ということができます。40度ぐらいが、人の臓器や器官、組織、細胞にとって活動しやすい温度となります。
ちなみに、スズメの体温は43度で、サイは35度、クマは38度です。一般的に、体が小さい動物程体温が高く、体が大きくなると低くなります。人は、体の割に体温が低いほうといえます。
深部体温35度以下が低体温症
人の体の奥の温度である深部体温が35度以下になったとき、低体温症と診断されます。
35~32度は低体温症の軽症、32~28度は中等症、28~20度は重症とみなされます。
体を温める体の仕組み
人の体は、体温を低下させない仕組みを持っています。
人の体には、体表面にも体内にも「温度センサー」の働きをする神経が張り巡らされています。脳の視床下部は、この温度センサー神経から温度に関する情報を集め、体温が適温になるようにコントロールしています。
例えば、視床下部が寒さを感知すると、血管を収縮させて体温を維持しようとします。それでも体温が下がっていけば、今度は筋肉を震わせて熱をつくって体温を上げようとします。肝臓などの内臓も熱を発することができます。
低体温症の症状
体には体温を高める仕組みがありますが、気温が低い場所に長く居続けると、気温に負けてしまいます。それで低体温症を引き起こすことになります。
低体温症の症状は次のとおりです。
・血行不良
・血圧上昇
・消化不良
・食欲不振
・体力の低下
・代謝の低下
・集中力の低下
・免疫力の低下
低体温症は突然死を招くこともあります。
低体温症の原因
雪山で遭難するなどの特殊な環境下にいなくても低体温症は起きます。
普通に生活している人が低体温症を引き起こす原因には次のようなものがあります。
・ストレス
・極度の体重減
・筋肉の減少
・老化
・甲状腺ホルモンの減少
ストレスによって自律神経が乱れると、神経が温度センサーの役割を果たせなくなり、体温調節機能が働かなくなります。
適切なダイエットは健康を増進させますが、激しい運動をしたり絶食したりして極度の体重減を招くと、体温を高める働きが低下します。筋肉が減っても体温を上げる効果が得られにくくなり、低体温症につながってしまいます。
老化は神経の働きを鈍らせるので、温度センサーの働きを低下させます。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を促し、熱を発生させる働きがあります。そのため、甲状腺ホルモンが減ると体温が低下します。
低体温セルフチェック
低体温はセルフチェックがしやすい病気ですので、自分で確認する習慣を身につけましょう。
●毎日体温を測る
体温計測は最も簡単かつ効果的な低体温セルフチェックです。
ビジネスパーソンであれば、メモ帳の日付欄に、体温を記していってみてはいかがでしょうか。
●暖房器具やクーラーとの関連を調べる
体温を測るとき、暖房器具やクーラーを使っているのかどうかも記録しておきましょう。
こうすることで、暖房器具とクーラーが体温に及ぼす影響がわかります。
メモ帳に記載するとき、体温の横に暖房・クーラーの有無、室温なども書き込みます。
もし両者の因果関係がわかれば、低体温の傾向がみつかったときに対策を講じやすくなります。
●家族が体温計測を促す
家族に体調がすぐれない人がいたら、体温を定期的に計測するようにすすめてみてください。
体調不良の症状が体温の変化にも現れたら、治療をするときの重要な情報になります。
親は、子供とのスキンシップを増やして、肌で子供の体温を感じましょう。高齢者の介護をしている人も、嫌がられない程度に、そしてさりげなく、額や手に触れるようにしてみてください。
低体温症はこう防ごう
低体温症を予防するには、まずは原因を取り除くことです。
●ストレッサーを取り除く
ストレスフルな生活を送っている人は、ストレッサーを取り除くようにしてください。
ストレスがなくなると、体温が元に戻るだけでなく、その他の体の不調も改善に向かうかもしれません。
●ダイエットを一時的に中断してみる
ダイエット中に低体温の傾向が現れ始め、体重の減少が顕著に進んでいたら一時的にダイエットを中断してみてください。
そして、ダイエットを中断して体温が元に戻ったら、それは体重の急激な減少が低体温をもたらしたのかもしれないので、ダイエットのペースを落としましょう。
ダイエットは重要な健康活動ですが、やりすぎは禁物です。自分の身長などから適切な体重を割り出して、その体重に「ゆっくり」近づけていってください。
そして適切な体重より下げないようにしてください。
●筋トレを採り入れてみる
ダイエット中に低体温の傾向が出た人は、ダイエット・メニューに筋トレを採り入れてみてください。
筋肉は効率的に体を温めます。
筋肉が増えても脂肪が減れば、体重減を達成しながら体温の改善を果たせます。
●体温が上がる生活習慣を採り入れる
そして体温を上げる生活を心がけましょう。
・入浴は湯船につかるようにする
・ショウガやネギ、ニンニク、大豆など体温を上げる食材を食べるようにする
・衣服と暖房を上手に使う
こうした取り組みをすることで低体温症のリスクを減らすことができます。
まとめ~ストレスのない生活を
体温は命を守る熱です。そのため低体温になることも(原因も)、低体温が続くことも(結果も)健康を害します。
日々、強いストレスを感じている人で、体温が低めで推移している人は、真剣にストレスを取り除くことを考えましょう。
自分でできることをしても低体温が続くときは、かかりつけ医に相談することをおすすめします。
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