ヘリコバクター・ピロリとは、なぜ恐れられているのか
INDEX
胃のなかに生息しているヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)は、体長4ミクロンほどの細菌です。
ピロリ菌に感染していると高い確率で胃炎を引き起こし、やがて胃がんに進んでしまうこともあります。
この記事ではピロリ菌の正体に迫っていきます。
ピロリ菌の特徴
ピロリ菌の主な特徴は次のとおりです。
・活発に動き回る
・厳しい環境でも生き残る術(すべ)を持っている
尻尾を回転させて動き回る
ピロリ菌にはべん毛と呼ばれる尻尾のようなヒゲのようなものが4~8本ついています。
ピロリ菌はこのべん毛を回転させて自由自在に動き回ることができます。
動けるということは、悪い環境からよい環境に移動できるということなので、生存能力を高めます。
酸だらけの厳しい環境下でも中和させて生存する
胃のなかには胃酸が存在します。酸はさまざまなもの溶かしてしまいます。
それでも胃が溶けないのは、胃の表面が粘液で覆われているからです。粘液はいわばコーティング剤のようなもので、胃を胃酸から守っています。
ピロリ菌はこの粘液のなかに潜んでいるので、酸に溶かされずに済んでいます。
ピロリ菌はさらに、酸を中和できるウレアーゼという酵素を分泌することができます。そのため、酸の影響を最小限にすることができます。
厳しい環境をやりすごすことができる
ピロリ菌の生存術では、厳しい環境をやりすごすことができます。
今いる環境が生存にとって不利になると、ピロリ菌は丸まって活動を停止してしまいます。そして環境が改善するのを待ちます。
環境が好ましい状態に戻ったら、再びべん毛を振り回して活発に動き始めます。
ピロリ菌と胃の病気の関係
ピロリ菌が直接的または間接的に関与する病気は次のとおりです。
・胃炎
・胃潰瘍
・十二指腸潰瘍
・胃がん
なぜピロリ菌によって胃炎が起きるのか
胃炎は、胃の内側の表面が炎症を起こす病気です。
健康な胃は粘液によって守られているので、胃炎を起こしません。
しかしピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が粘液の効果を弱めてしまうので、胃が胃酸によって傷つき炎症を起こしてしまいます。
なぜ潰瘍に進んでしまうのか
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃炎が進行した病気です。
胃炎を起こした段階で治療を受けてピロリ菌を除菌しないと、高い確率で潰瘍になってしまいます。
なぜ胃がんに進んでしまうのか
厚生労働省によると、胃がんによる死亡者数は、2000年までの約30年間、年50,000人ほどで推移していました。
しかし2000年以降にピロリ菌除菌が保険適用になったことで国民のピロリ菌除菌が進み、2015年には胃がんによる死亡者数は年47,000人程度にまで減りました(*1)。
ピロリ菌除菌は胃がん死の減少に寄与していると考えられます。
ピロリ菌の成分が細胞の突然変異を引き起こし、その結果、がん細胞になってしまうのではないか、と考えられています(*2、*3)。
ピロリ菌の歴史
ピロリ菌を発見したのはオーストラリアの研究者です。発見されたのは1979年なので、それほど古いわけではありません。
胃炎や胃潰瘍は長年、強いストレスによって発症すると考えられてきましたが、ピロリ菌の発見によって、ほとんどの胃炎と胃潰瘍はピロリ菌によって引き起こされていることがわかりました。
しかしピロリ菌が発見されたばかりのころは、強い酸のなかで細菌が生息できるわけがないと反論されました。
そこでピロリ菌を発見した研究者が、自らピロリ菌を飲んで胃炎を起こしてみせた、という有名なエピソードがあります。
その研究者は、2005年に、ピロリ菌の発見によりノーベル医学生理学賞を受賞しました。
なぜピロリ菌が胃に生息するのか
ピロリ菌は人の体内でつくり出されるものではありません。
外から人の胃のなかに侵入します。それでピロリ菌を保有している人を「感染者」と呼ぶわけです。
ピロリ菌の感染経路は確定していませんが、次の3つの経路が疑われています。
・親の口から子の口へ
親が口移しで食べ物を子供に与えると、子供がピロリ菌に感染するかもしれないと考えられています。
・大便から口へ
人の大便のなかからピロリ菌が検出されたことがあります。
そのため、何らかの事故で大便が口に入ってしまうと、ピロリ菌に感染する可能性があります。
・井戸水を飲んで
井戸水などを飲んでピロリ菌に感染することもあるとされています。
ただ、通常の水道水から感染することはありません。
除菌は簡単、薬を飲むだけ
ピロリ菌に感染していても、必ず胃炎や潰瘍を起こすわけではありません。
そのため、無症状の人の胃のなかにピロリ菌が生息している可能性は十分あります。
クリニックや病院で、ピロリ菌に感染しているかどうか検査することができます。
そしてピロリ菌に感染していることがわかれば、薬を飲むだけで除菌できます。
ピロリ菌が暴れ出す前に除菌してしまいましょう。
まとめ~念のために除菌しておきましょう
人が保有する細菌のなかでも、ピロリ菌は特にやっかいな存在です。胃炎や胃潰瘍で苦しめられ、最悪、胃がんを誘発することもあります。
胃に違和感がない人も、クリニックなどでピロリ菌検査を受けたほうがよいでしょう。ピロリ菌がみつかれば、そのまま除菌用の薬が処方され、それを飲むだけで済みます。
新宿 ヒロオカクリニックではピロリ菌の検査・治療や消化器内科の専門医による外来診療に加え、健診・人間ドックでの胃内視鏡検査も行っておりますのでお気軽にご相談ください。詳細はこちら